サルグマリンの対象となる患者さん
サルグマリンは、自己免疫性肺胞蛋白症(autoimmune pulmonary alveolar proteinosis:APAP)の治療に使われる吸入剤です。APAPの主な症状は、体を動かしているときの息切れや咳などです。痰、体重減少、発熱などがみられることもあります1)。
自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)とは?
肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、肺胞のなかに必要以上に肺サーファクタントが蓄積することで、息切れや咳などの症状が生じる疾患です。PAPは原因によって分類され、APAPがPAP全体の9割を占めるとされています2)。
肺サーファクタントは、Ⅱ型肺胞上皮細胞と呼ばれる肺胞の内側に飛び出している細胞から産生され、肺胞の内側を薄く覆うことで、肺胞の表面積をできるだけ小さくしようとする力(表面張力)を低減し、肺胞がつぶれるのを防ぐ役割を担っています。健康な人では、肺サーファクタントは肺胞マクロファージという細胞によって分解され、産生と分解のバランスを取ることで適切な量が維持されています(図1)3)。肺胞マクロファージは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony-stimulating factor:GM-CSF)という生理活性物質の働きにより、成熟することで正常に機能します。
人の身体には、細菌やウイルスなどの病原体を無力化する抗体を作り、身体を守る免疫という仕組みがあります。しかし、本来身体を守るはずの免疫が、自分の身体の一部を病原体と錯覚して自己抗体と呼ばれる抗体を作り、自分の身体を攻撃してしまうことがあります(自己免疫反応)。自己免疫反応によってGM-CSFに対する自己抗体(抗GM-CSF自己抗体)が生じると、GM-CSFが働かなくなります。すると、肺胞マクロファージが成熟できず、正常に機能しなくなるため、肺サーファクタントは分解されず肺胞内に必要以上に蓄積してしまいます(図2)4)。こうして発症する肺胞蛋白症を自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と呼んでいます。
サルグマリンのはたらき
サルグマリンは、ヒトGM-CSFの遺伝子を酵母に導入して作らせたヒトGM-CSF製剤です。
サルグマリンの吸入は、肺胞内のGM-CSFを一時的に過量にすることで、必要量を補充し、肺胞マクロファージの機能を回復すると考えられています(図3)。
サルグマリンの使用に注意が必要な方
次の項目に該当する方はサルグマリンを使用することができません。
サルグマリンに含まれる成分に対する過敏症の既往歴のある方
サルグマリンの投与スケジュール
サルグマリンによる治療は、1日2回の吸入を1週間行ったら1週間お休みするというサイクルを1クールとして、12クール繰り返し行っていきます(図4)。
治療スケジュールを守っていただくことは、肺胞マクロファージの機能回復にとても大切です。
引用文献
- 1)難病情報センター. 肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)(指定難病229)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4775 - 2)日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- 3)Trapnell BC, et al. N Engl J Med. 2003; 349(26): 2527-2539.
- 4)中田光. 日内会誌. 2015; 104(2): 314-322.